タケト達は、洋館から少し離れた場所で様子を見ていた。
白い洋館は少し古ぼけていたが、意外にも綺麗な外観をしていた。
しかしながら、にじみ出る禍々しい雰囲気がその綺麗な見た目をぶち壊す。
イヒカの能力――【ネクロマンス】という、死者を冒涜する力の影響なのか、タケト達には逆にどす黒く見える気がしていた。
「……ようやくたどり着いたな」
カシムが呟く。
そんな禍々しい雰囲気に気圧されることもなく、視線は鋭く洋館を睨みつけた。
「えぇ……必ずイヒカまでたどり着きましょう」
「あぁ。 絶対に逃がさない」
マライアとニールも同じだった。
三人が洋館に視線を注ぐ中、タケトは一人彼らに背中を向けて別のことに集中していた。
「……タケト、何している?」
タケトは振り向くこともせず、背中を向けたまま答えた。
「……入り口は四つあるぞ。 正面と裏、右と左に一つずつ」
「……なぜわかる?」
「能力」
タケトのそのシンプルな回答は、しかし十分な説得力があった。
【能力】――その詳細は分からなかったが、どんなに鋭く的確な推論よりも信頼できる。
それは、三人がこの世界の【能力】を熟知し、その強力さを理解しているからである。
「――で、どうする? 選択肢は二つだ」
タケトは向き直り、三人に向かって提案する。
「それぞれの扉を一人で行くか、一つの扉に皆で行くか」
カシムは少し考える。
カシムの中で答えはほぼ決まっていた。
「一人ずつで行こう。 ……あいつを逃がすわけにはいかない」
カシムの答えにマライアとニールは頷く。
「タケトはそれでいいか?」
カシムが少し考えたのは、タケトのことだった。
タケトは少し笑みを浮かべた。
「俺はお前らに従うさ。 俺が決めることじゃない。 お前らの復讐だからな」
「……やばいと思ったら、構わず逃げていいからな」
出会ってまだ数時間しか経っていないが、カシムはタケトの人間性をかなり気に入っていた。
『構わず逃げていい』――それによって仮にイヒカに逃げられたとしても、後悔はしない。
逆にタケトが無理をして怪我をしたり、死んでしまったりするようなことがあれば、それこそ後悔するだろう。
そうはならないために。
【正門】
正面には、大きな両開きの白い扉が見える。
近づくと、その扉はゆっくりと開いた。
「……やはり、待ち構えていたか」
ぞろぞろと現れたのは、二十体ほどのゾンビ。
サイカ村の見知った顔も含まれていた。
「ふざけやがって……」
カシムは背中の剣を抜き、両手に持つ。
わらわらと出てくるゾンビを見て、カシムは全身にオーラを纏わせる。
タケトは早速有能なところを見せてくれた。
入り口は四つある――詳細は分からないが、離れたところから情報を得ることができる。
戦いに直接関係する能力ではないが、しかしカシム達三人にはありがたい能力と言えた。
カシムも、マライアも、ニールも。
『守り人』というだけあって、全員戦闘系の能力しか所持していなかった。
しかし、そうであるなら逆にタケトは戦闘系の能力を持っていない可能性がある。
実力を測り、戦闘における実力は高いと評価できたが、まだ経験も浅い。
こんなゾンビ程度に後れを取ることはないだろうが、何があるのかわからないのが戦いだ。
イヒカを倒す――それは、最優先。
そして、タケトは無傷のままこの戦いを終わらせる。
カシムが最良の結果のために考えたのは、イヒカを素早く仕留めることであった。
ゾンビの群れはカシムの姿を見つけると、左右にふらつきながらカシムに向かって進む。
カシムは二本の剣を握ったまま、右手の小指に円月輪をひっかけた。
そして――真正面に投擲。
さらに円月輪を追うように自身は突っ込む。
円月輪は三体のゾンビの頭を吹き飛ばし、カシムの手元へ戻ってきた。
カシムは左手の剣を握ったまま、その柄と指の間に円月輪を引っかける。
そして、そのまま左側へ再び投げた。
目線は、間近に迫る右側の四体のゾンビ。
円月輪を投げた勢いのまま、伸ばしていた左腕を斜め下からすくい上げるように一体を斬る。
一歩踏み込み、今度は右の剣でもう一体を同じように斜め下から斬り上げた。
カシムの両手は、頭上で交差する。
そして、二本の剣にオーラが込められる。
そのまま、カシムは剣を十字の形で振り下ろした。
――【弐式・グランドクロス】
振りぬいた剣から、十字の形のままオーラが放たれた。
迫っていた残り二体のゾンビを貫通し、さらにその後ろにいたゾンビも数体切り裂いた。
【グランドクロス】――カシムがオーラを込めて放つ剣技の一つ。
零式から参式まであり、先ほど使用したのは遠距離攻撃可能でかつ、斬撃力の高い技である。
カシムは再び手元に戻ってきた円月輪を受け取ると、残りのゾンビに視線を戻した。
残り八体。
そしてすぐにカシムは残ったゾンビを掃討するために突っ込んだ。
【右門】
マライアの顔は少しひきつる。
目の前にはゾンビ――それは予想していたが、ひきつった原因はその数にあった。
――五十体は、優に超えている
他の仲間のことが一瞬頭に浮かんだが、すぐに首を横に振った。
今は、目の前に集中しないと。
マライアは腰にぶら下げた三体の人形を手に取った。
それは、彼女がオーラを込めて作り上げた特別な人形だった。
そして再びオーラを注ぎ込み、頭上へ高く放り投げる。
――【人形遣い/ドールマスター】
空中に放られた人形は、一瞬光を放つ。
そしてそれらは、マライアの身体をはるかに超える体躯へと変容した。
【人形遣い/ドールマスター】――マライアの能力。
自作の人形に命を吹き込み、操る力。
現在使用している人形は、『シヴァ』『ヴィシュヌ』『ブラフマー』の名を授けた三体である。
「行きなさい、シヴァ」
シヴァは青い身体の、四本腕の戦士。
それぞれに剣を持つが、『大剣』に分類される大きな剣を軽々と振るう。
左から横薙ぎの直撃を受けたゾンビは、その剣によって真っ二つに――とはならなかった。
左腕で受けたゾンビは、その腕の骨を粉砕されそのまま壁まで吹き飛ばされる。
斬るではなく殴る、と言った方が正しい。
しかしながらその威力は、ゾンビを仕留めるには十分すぎるものであった。
「ヴィシュヌ、出番よ」
ヴィシュヌは黄色い身体の、シヴァよりも身体の大きな六本腕の戦士。
シヴァのように武器は持ってはいない。
しかしゾンビの群れの中心で、その力を振るった。
片手で頭を掴んでは潰す。
殴れば、身体を貫いた。
複数集まっているところには、ゾンビをそのまま投げつける。
六本腕とその巨躯を活かした戦いを得意としていた。
「ブラフマー、トドメを」
ブラフマーは他の二体と比べ、一回り小さな黒い身体の戦士。
腕も普通の人間と同じく右手と左手だけであり、ゾンビの群れの中に飛び込むようなこともしなかった。
代わりに、両手で大事そうに錫杖を持っている。
ブラフマーは少し離れた位置で、狙いを定めていた。
――一番、ゾンビが集まっているところを。
そして――地面に錫杖を突き刺す。
――【地裂撃】
ゴゴゴ、地鳴りが響く。
錫杖が突き刺さったところから、ブラフマーが狙いを定めたところまで地面にヒビが入った。
そして、ブラフマーの錫杖から放たれたオーラが、そのひび割れを伝っていく。
そのオーラがゾンビの群れに到着した時――突如、大地は巨大な円錐状に盛り上がり、複数のゾンビを貫いた。
ブラフマーは錫杖を使用して大地を操る力を持ち、ゾンビの数を減らしていった。
マライアもまた自身でゾンビを仕留めていく。
【ドールマスター】を『自動戦闘モード』に切り替え、とにかく数を減らすことに集中した。
残り、約三十体――マライアは少しため息をついた。
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