赤羽タケトは、ビリヤードの球を縦に積み上げていた。
ただの、暇つぶしだった。
しかしながら3つ、4つと積みあがるたびに、周囲の注目を浴びる。
つるつるとした球体で、そんなことができるとは誰も思わなかった。
8個目の球を乗せたところで、タケトは時計を見た。
も嘘ろそろかな。
涼しい顔で9個目を乗せようとする。
周りのギャラリーは、固唾をのんで見守っていた。
「これで完成、っと……」
わぁっ、と歓声が上がる。
すげーなお前、なんてタケトの背中を叩くやつもいた。
タケト自身、迷惑そうな顔をしたが、一応褒めてくれているので「おう、あんがと」と適当に返していた。
しかし歓声で空気が震えたせいか、絶妙なバランスを保っていた球体タワーはグラリと揺れる。
元々絶妙なバランスで積みあがっていた球体タワーは、ぐらつく。
「あ――」
あっという間に、ガシャンと音を立ててタワーはくずれた。
「す、すまねぇ兄ちゃん――」
「あー、いいっていいって」
タケトは床に落ちてしまった球をひろい、ビリヤード台に置き、自分のリュックを肩にかけた。
球体タワーが崩れた事を気にした様子は全くない。
近隣の大学に通うタケトは一人暮らしをしていた。
今日は大事な用事があった。
『愛する』妹が、家に来る。
両親は既に他界しており、妹はタケトにとってたった一人の家族。
もちろん、種類としては『家族愛』に分類される。
――が、その溺愛っぷりは他者から『シスコン』と呼ばれるほどであった。
そして、タケト自身も自覚していた。
――俺は、シスコンであると。
妹を迎えに行くために、球体タワー作成時のギャラリーに軽く挨拶をして、部屋を出ようとした。
まさにその時である。
【世界融合】が、始まったのだ。
最初に、大地の揺れを感じた。
初めは微小なものであったが、瞬く間に立っていられないほどの激震へと変わる。
ドアノブに手をかけていたタケトは、いったん手を放しビリヤード台の下に身を隠した。
揺れはなかなか収まらず、しかしどうすることもできない。
頭を押さえて身を守っていたタケトだったが、妙な眩しさを覚えふと顔を上げた。
窓から、眩いほどの光が差し込んでいた。
外の様子は見えぬほどの光量。
それはさらに強さを増していく。
部屋が光で満たされた時、タケトは気を失った。
目を覚ましたタケトは、気を失っていた事に驚きつつもまずは自分の荷物を確認した。
盗られたものは無さそうだ。
次に周囲を確認する。
タケトと同じように他の人も気を失っていたらしく、まだ目を覚まさない人、今まさに目を覚ました人、起きて介抱する人がいた。
パッと見て酷い怪我をした人はいないらしい。
立っていられないほどの揺れだったために、その事に少し安堵しつつタケトも介抱の手伝いをした。
途中、ドアノブに手をかける。
……ドアノブが、動かない。
鍵が掛けられているとか、壊れているわけでもない。
何かが違った。
――何か、得体のしれない力が働いているかー?のような……
「みんな、起きたかな?」
その言葉に、タケトは振り向いた。
その場にいた全員が、その人物に注目していた。
部屋の中心に、真っ黒いローブを纏い、深くフードを被る人物が立っていた。
気を失う前にこんな人物を見かけた覚えはない。
これほど怪しい風貌だ。
最初から居たのならば絶対に気づくはずだ。
「今、世界は融合された」
ローブの人物は語り始める。
しかしその意味を理解できた者はおそらくいない。
「そして、僕は案内人だ」
案内人は、ニヤリと笑う。
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