「まずは外を見るといい」
突如現れた案内人は、窓を指す。
誰もが怪しげなその人物のいう事に、素直に応じるのは躊躇ったが、しかし他に良い案もなかった。
そして――窓から覗く光景は、想像とは違った。
商業施設のど真ん中に立地していたビリヤード場兼ゲームセンター。
しかし窓の外に広がっていたのは、荒れた大地と乱立する樹木だった。
そして。
人よりは小さく、2足で歩く青白い不気味な生物。
さらには、腕の代わりに翼を持ち、猛禽類のような顔をした鳥人間までいる。
見たことのないような生物が、互いに襲い、喰らい合うという地獄の様な光景だった。
「なん……だ、こりゃあ――」
誰かの口から漏れる。
そしてその疑問に、誰も答えられない。
――ただ、一人を除いて。
全員の視線が、案内人に注がれた。
「見たかい? 状況は理解できた?」
「で……できるわけないだろ」
どう考えても説明されないと、これは――理解できるはずがない。
誰もがそう思い、口々に文句を言い始めた。
そんな中、タケトだけは黙って外を見つめていた。
「仕方ないなぁ。 じゃあ説明しようか」
案内人は足音も立てずに移動し、窓の方へ向かう。
ちょうど、タケトの隣に立った。
「君たちは今、『選択肢』を与えられている、と思ってほしい」
「せん……たく……し?」
「この部屋は元の世界のままだ。 窓の外は、君たちにとっては新世界と言える」
案内人はそのまま、唯一の扉を指さした。
「あの扉を出た瞬間、おめでとう。 新世界の住人だ」
おめでとう、という表現に違和感を持ちつつも誰かが疑問を投げかけた。
「……ここから出なければ?」
「そりゃあそのままだよ。 外にいるアイツらがここに来ることもない」
案内人の言葉に、少し安堵の声が広がる。
それならば、外に出なければいい。
外に出る必要なんかない。
誰かが、助けに来るまでここに籠って――
誰もがそう思う中、隣にいたタケトが口を開く。
「……最初から外にいたやつはどうなる」
「ん……?」
「選択肢はなく、新世界の仲間入りとなるのか?」
「……その可能性は高いね」
タケトは眉間にしわを寄せ、少し考えるそぶりを見せた。
そして――「わかった」と呟き歩き始める。
向かう先は、――扉である。
「お……おい、アンタ行く気かよ!」
そんなのは、どう考えても正気とは思えない。
元の世界で言うならば、猛獣の檻に向かうようなものである。
タケトは、フッと軽く笑って答えた。
「外に、妹がいるんだ」
躊躇うことなく、タケトは扉を開く。
扉を開くと廊下が見えた。
しかし、一歩踏み出すと世界が変わった。
突如、視界が黒く染まる。
あたり一面が、真っ黒な世界だった。
「こりゃ……いったい――」
「ようこそ、新世界へ」
部屋の中で見た、案内人と同じ格好の人物がいた。
声色は違うので、別人とタケトは認識する。
「……どういうことだ?」
「私は、新世界へ踏み出した人へ新たな力を授ける者」
「……いや、だからどういうことだ?」
タケトの問いの答えになっていなかったし、意味も解らない。
そんなタケトを気にせず案内人は続けた。
「外にいた化け物相手に、どう戦うおつもりでしたか?」
「……戦うつもりなんてねぇよ」
うふふ。
案内人は少し笑う。
案内人は右手を顔の前に差し出した。
その右手の周囲に、金色の、揺らめく湯気のような、もやのような『何か』が見えた。
「これはオーラです。 人間の生命エネルギーから生成されます」
タケトはそれを聞いて自分の手を見た。
確かに、微かに自分の右手にもオーラが纏われているのが見える。
「……これはなんだ」
「これを利用して、常識では考えられぬ事象を引き起こすことが出来ます」
「……なんか、漠然としてんな」
案内人の説明は、タケトにはいまいちピンと来なかった。
「分かりやすく言うならば、『何でもできるし、何にもできない』です」
「……余計わからんが」
うふふ。
言葉遊びを楽しむような案内人。
だが、タケトはそれほどいやな気持ではなかった。
何より、声色が女性で、背格好が妹に近い。
顔がフードで隠れているのが残念、と頭の片隅で思っていた。
「例えば――太陽を創ったり、雨を降らせたり」
案内人は小さな絵画のような太陽を創り、次に絵画のような雨雲を創る。
「例えば――飛んだり跳ねたり」
案内人は、鳥かと思えるほど高く飛んで見せる。
「例えば、何かを創ったり――」
案内人は、ワイングラスを作成した。
「飲み物を、作ったり」
案内人の指から、オーラが滴り落ちる。
ワイングラスが、黄金色の液体で満たされた。
「どうぞ」
これを――飲めってか。
正直得体のしれないものである。
一瞬ためらいはしたが――まぁここまで来て毒ってこたぁないだろう。
タケトは、一気に飲み干した。
「……うま」
「うふふ、ありがとうございます」
瞬間、タケトの身体がオーラに纏われる。
それは、まぎれもなくタケト自身のオーラによるものであった。
「こ……これは――」
「今の飲み物は、あなたの潜在能力――要はオーラを引き出す効果があります」
「……なるほど」
タケトにとっては、すべてが未知の世界であった。
だから、思考が追い付いていなかった、というところがある。
「『何でもできるし、何にもできない』か。 なるほどな」
「お、わかりますか?」
自分から発せられるオーラを感じ、タケトは少し落ち着きを取り戻す。
コイツは――すごいものかもしれない。
「要は、得手不得手がある、ということだな」
「そういうことです」
うふふ。
可愛らしく案内人は笑う。
「オーラをどう使うかはあなた次第。 それで生き残れるかどうかもあなた次第」
「……雑な案内人だなぁ」
「そういう風に造られましたので」
やや含みのあるような言い方だったが、しかし深堀したところで意味はないだろうなとタケトは聞くのをやめた。
――とりあえず今は、妹を探さないと
「出口は、この方向に真っ直ぐ進んでください」
案内人の指し示す方向へ、タケトは進んだ。
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コメント 1件
Jetts2026.10.24
まだ序盤 ファンタジー世界に行って冒険がしたいという気持ちを存分に引き上げてくれる術式とオーラ。使い古されているかもしれないけれどわかりやすくこの世界を知る道しるべになります。 何でもできて、何もできない…………いい、これですよこれ。 わかってらっしゃいます。 続きが楽しみです。
感想ありがとうございます。 単純な『俺TUEEEE』的なものにはしたくなかった結果が評価されて嬉しいです。 今後も楽しんでいただけるよう更新していきますので、よろしくお願いします┏○ペコッ