男が二人。
そして女が一人。
三人が歩く。
楽しげな様子はない。
微笑ましい旅の一幕、と呼べるような雰囲気でもなかった。
三人の表情は硬く、その瞳には強い決意が宿っている。
――三人の表情は、やや渋く、決意のこもった眼をしていた。
「この方向で、合っているんだよな?」
白髪を逆立て、背中に二本の剣、腰にも別に二本の剣と複数のナイフ、そして円月輪。
額にはゴーグルをつけた浅黒い肌の男――カシムが言った。
「大丈夫よ。 何度も確認したでしょ」
長いウェーブがかった黒髪をなびかせる女性が言った。
黒を基調とした服に、腰に三体の自作の人形をぶら下げる女性――マライアだ。
「カシムが心配性なのはいつものことだろ」
さらさらとした黒髪の男。
軽鎧に身を包み、一本のレイピアを腰に差す男――ニールが皮肉めいて言う。
二人に言われて、少し息を吐いてカシムは返した。
「……すまない。 気持ちがはやっているんだと思う」
「分かってるわよ。 でも、それは私たちも同じ」
「そうさ。 俺たちの目的は同じ。 だからお前の気持ちも分かる」
カシムの謝罪に、責めることはしない。
その思いは痛いほどわかり、そして同じ思いだからだ。
「絶対に……ヤツを倒すぞ」
「あぁ」
「もちろん」
その目には、怒りと恨みの熱がこもる。
彼らの旅の目的は――復讐であった。
「イヒカ――待っていろ」
ルシファーの修行を終えて、タケトは一人歩く。
「……まいったな」
少し肩を落とし気味に歩いていた。
というのも現在地も、これからどこへ進むべきかも、まるで分かっていなかった。
修行当初に『ここはゼルテニアの森だ』というのは聞いたが、「そんな情報はあとだ」とそれ以上の情報はスルーしていた。
そして、スルーしっぱなしであった。
予定では、『人が多くいそうな町や国』を聞いておいて向かうつもりだった。
――別れる直前にルシファーさんが『既婚者』だと発覚したからだ。
女の影なんか見られなかったところに『嫁がいる』なんて言われたら、そりゃ気になるだろう。
決して俺は悪くない。
……と、人のせいにしても、現状は変わらない。
もちろん自分に非があることは理解している。
というかほぼ100%タケトのうっかりであったのだが、なんとなくそこを認めたくなくて、自分の中で少しだけルシファーのせいにしようとしていた。
そして、だとしても何も変わらないことを改めて感じて、またため息をつく。
『妹を探す』
この目的がありながら、全くの手掛かりがないのは正直絶望的と感じていた。
ただでさえ、2カ月も修行で時間をかけているのに。
この修行時間――2カ月は、ルシファーからすれば相当に早いと思える期間である。
だが、タケトにとっては当然そうではない。
あぁ。
シズク……大丈夫だろうか。
化け物に襲われたら――そんな想像をしたら、もう気が気じゃない。
たとえオーラを覚えたとて、人を傷つけるような娘じゃない――多分。
きっと今でも俺の助けを待っていることだろう――多分。
誰か――ルシファーさんみたいな優しい人に助けてもらったりしてもらえれば――。
いや――待てよ?
シズクを助けてくれるのはありがたい話だ。
しかし――そいつが、男だったら?
シズクは美人だ。
惚れないわけが……ないだろう。
『へへへ……助けてやったんだし、ちょっとくらいいいよな?』
「……あなたに触られるくらいなら、今すぐ舌嚙んで死ぬわ」
――それは、まずい。
タケトはあふれ出る妄想に焦りを覚えていた。
いつものシスコン思想の暴走ではあったものの、その時ぬめっとした視線に気づくのであった。
三人は、ぴたりとその歩みを止めた。
「魔獣……ね」
『魔獣』――とは、『言語を理解せず、動物や人間を襲うモノ』。
タケトが『世界融合』直後に戦った餓鬼や、鳥人間もこれに該当する。
大抵は動物に近い見た目をしているが、人間に近いものもいるし、一言では形容できぬような不気味なものも存在する。
彼らが見たものは、『マンティコア』と呼ばれる魔獣であった。
ライオンのような体と顔を持ち、背中部分に翼を生やし、尾は蛇のような形をしており、そこから無数のトゲを生やしている。
トゲには神経毒を備えており、獲物をしびれさせる効果がある。
そして主に食すのは――人間だ。
「……アイツ狙われているな」
「え――?」
カシムがぼそりと呟いたが、ニールとマライアにはマンティコアの大きな体躯の陰に隠れて見えていなかった。
「……誰かいるのか?」
「あぁ。 あまり見ない服装だ」
「服装なんてどうでもいいわよ。 助けに行かなきゃ――」
「――待て」
目の前で無残に魔獣に食われてしまう人間なんて見たくない。
そう焦るマライアに、カシムはストップをかける。
マライアは、カシムを睨んだ。
「何考えてるのよ! 見捨てるつも――」
「――アイツ、気付いてる」
「――え?」
カシムの視線の先。
黒いパーカーに、赤いシャツ。
茶色い短髪の男。
口笛を吹きながら歩くその男――タケトのその後ろにマンティコア。
普通なら、自分の後ろに魔獣がいれば振り返るなり、逃げるなりするはずだろう。
だが、『全く私は気づいておりません』と言わんばかりに、呑気な様子で男は歩いていた。
しかしカシムは見逃さなかった。
男のオーラが、妙なほど揺らめいたことに。
マンティコアの尾が、男に狙いを定める。
そして――トゲを飛ばした。
そして男は――まだ動かなかった。
「ちょっと――間に合わない!」
マライアが叫ぶ。
今まさに男にトゲが刺さる――その瞬間。
タケトのオーラが瞬間的に膨れ上がった。
そして、その場から飛び上がる。
魔獣であるマンティコアですら、『獲物にトゲが当たった』という確信を持った。
マライアやニールでさえも、『ヤバい』と思えた。
その瞬間をタケトは待っていた。
飛び上がってタケトはそのまま宙がえり。
油断していたマンティコアは、タケトを見失っていた。
タケトはそのままマンティコアの背中に落下しながら、蹴りを見舞う。
もちろん、オーラはしっかり込めて。
「……ずいぶんと、リスクの高い戦い方するわね」
無事だったことに少し安堵しつつも、呆れた様子でマライアは呟く。
――一歩間違えれば、負けていたじゃない
マンティコアはタケトの一撃で、背中を思い切りへし折られる。
そのまま三人はタケトの様子をうかがっていた。
倒したというのに、なんだか妙な動きをしている。
いろんな方向から倒したマンティコアを見ては、何か考えるそぶりを見せた。
「……何してるんだ、あれ?」
「……さぁ」
ニールとカシムも頭にハテナを浮かべる。
やがてタケトは、マンティコアの首根っこを掴んで歩き始めた。
その方向は三人の方へ、だ。
「……こっちに来るけど」
「……警戒は、しておけ」
カシムは、いつでも戦えるように手を背中の剣に添える。
だが、ニールが少し笑った。
「その必要はなさそうだ」
『おーい』――大声で手を振りながらタケトは三人のもとへやってくる。
マンティコアを、引きずったまま。
「よ。 すまんな。 ちょっと聞きたいことがあってさ」
タケトは、ニコニコと話す。
直前まで、戦っていた様子には見えない。
「……なんだ」
まだ少し警戒しながら、カシムは返す。
「こいつ、食える?」
タケトは、お腹がすいていた。
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