「手伝ってもらっちゃって、ありがとなぁ」
「いや、こちらこそ。 喰わせてもらえるならありがたいさ」
ニコニコと礼を述べるタケトに、笑いながらサラサラの黒髪の男――ニールが返す。
マンティコアは尾の神経毒を含むトゲの部分を除けば一応食べられるらしい。
とはいえ、『誰も食べたことはないから味は――』と微妙な反応をされて、タケトも不安な表情を見せる。
だが、保存食や備蓄なんてものはない。
喰える時に食っておかないと。
と、枝を集めて火を起こそうと思っていたところに、『調味料ならあるけど』との提案を受け、一緒に食べることにした。
「……さっきの戦い」
「ん?」
「……なぜあんな戦い方を?」
白髪の男――カシムが唐突に聞く。
マンティコアの攻撃をギリギリまでひきつけ、油断を誘う。
一目タケトを見た感想は、『普通に戦っても勝てる力はあったはず』だった。
タケトは少し考えて、答える。
「あの状況は、あれが一番早かったから、かな」
「……失敗すれば、とは思わなかったのか」
「思ったとして、だ。 普通に戦ったらそれはそれでリスクだろ」
少し、カシムは笑う。
――面白い奴だな
普通に戦えば、相手の攻撃を警戒しながら、何度も攻防を繰り返すことになる。
つまりタケトは、危険にさらされる時間そのものを減らすために、一度の大きなリスクを選んだ。
――思いついても、普通はやらない
「……ふっ」
「お、初めて笑ったな。 意外といい顔するじゃねーのよ」
「……カシムだ」
「俺はタケトだ。 よろしくな」
カシム、マライア、ニール。
三人の顔に、少し笑顔が戻る。
復讐の旅――その思いを胸に進んでいただけに、タケトとの出会いはよい緩衝材となった。
「……え、貴方あの『世界融合』で来た異世界人なの!?」
その事実は、三人にとってかなりの衝撃であった。
来たことが、ではない。
「……一応聞くが、タケトは前の世界で『オーラ』を使ったり、なんてことは――」
「いんや、ここに来て初めて覚えたぜ」
ニールの問いに、タケトはマンティコアの肉をかぶりつきながら答える。
――オーラを覚えて二カ月しか経っていない、だと?
先ほどの戦い。
マンティコアの油断を誘ったその策に目がいってしまっていたが、仕留めた攻撃も見事であった。
瞬間的にオーラを足へ集中させた、あの操作技術。
もちろん慣れた者なら、なんてことはないものだ。
だがオーラを覚えて二カ月と聞くと――末恐ろしいものがある。そう三人は感じた。
「だがよ、あんた達も十分強そうに見えるが?」
「……一応、私たちは村の『守り人』というのをやっていたからね」
答えたのはマライア。
少し、目線を落としたまま。
「『守り人』?」
「村や町には、さっきみたいな魔獣や野盗なんかに対抗するために戦える人材を置くのさ。それが『守り人』」
今度は、隣のニールが優しく微笑んで答えた。
少しタケトは考えて返す。
「……国とか、城とか、そういうでかい規模のところは軍がいるけど、小さい規模の所は『守り人』が守る、つーことかな?」
「……それで合ってるわ」
なるほど。
この世界には『国』や『城』がある。
そして『村』や『町』も。
タケトは、『ゲームのRPG』をなんとなくイメージした。
タケトは何気ない会話の中で、少しずつ情報を得ていく。
だが、それとは別に一つ気になった箇所があった。
「ふぅ、美味しく食べられたよ。 ありがとな」
「いえ、こちらこそ。 食料いただけたのはありがたかったわ」
マライアが優しく笑う。
少しクールっぽい、大人の女性。
そんな人に笑顔を向けられ、少しタケトはドキリとする。
――あれ、俺こういう女性がタイプなのかな……?
思えば、溺愛する妹・シズクもかなりクールな性格である。
シズクと比較してみて、とある事実に気付く。
――……こんなふうに、笑顔見せてくれたこと、ない気が……
だからドキリとしたのか……。
衝撃の悲しい事実に突き当たり、少し肩を落としていた矢先である。
「……タケト」
「……ん?」
カシムの視線はタケトに注がれていた。
タケトはカシムを『寡黙な、表情にあまり変化がないタイプ』と評価していた。
だがそんなかでも、一層鋭い視線をタケトに向けていた。
「……少し、手合わせしないか?」
「ちょっと、カシムーー」
「おい、お前――」
マライアとニールは同時に止めに入ったが、カシムはそれを右手を出して制する。
「……自信がないなら、やめてもいいがな」
明らかなカシムの挑発。
しかしタケトはカシムを見つめ、少し間をおいて答えた。
「……はっきり言えよ。 『実力を測りたい』ってよ」
「――っ!?」
「目的は……復讐か?」
「……なぜ、分かる」
「あ、正解だったか。 『復讐』ってのは、あてずっぽうだったんだが」
「……は?」
カシム達は、軽い自己紹介程度しかしておらず、当然旅の目的なんかはタケトに言っていない。
「マライアが言ってただろ。 『守り人をやっていた』ってな」
「……それが、一体――」
「過去形。 今はやっていないという意味だ」
「……それがなぜ『復讐』にたどり着くんだ」
タケトは、『えーとだな』と言いながら上を見上げた。
そこに至った情報を、説明できる形に整理するために。
「村での守り人、ってのは5人も10人もいないだろ」
「……大抵は2,3人だ」
「だよな。 だからそうするとあんた達が守り人をやっていない理由が見えてくる。 『あんた達3人が、同時にやめざるを得ないようになった理由が』、な」
――あんな何気ない会話で、どこまで深い考えをするんだコイツは
カシムだけでなく、マライアもニールも同じく思った。
「――村が滅んだ。 あるいは無くなったってのが最有力。 ま、あくまで想像だったが」
「……そこにカシムが手合わせを提案してきて、核心に近づいたということね」
「おぉ、正解だ。 やるな、マライア」
『ふふ』と少し笑ってタケトは続けた。
「三人とも守り人を辞めて、一緒に旅をしてる。しかもカシムは、会ったばかりの俺の実力を知りたがった」
タケトはカシムを見る。
「――戦力が必要なんだろ? それも、かなり切羽詰まった理由で」
そこでタケトは言葉を区切った。
上を向いて大きく息を吐く。
「だからまあ……復讐か何かかな、ってな。そこは勘だ」
異世界から来たというこの男には、驚かされることばかりだ。
カシムは、また笑みを浮かべた。
――コイツ、本当に面白い
「……で、どうなんだ? やるのか、やらないのか」
タケトは、ニヤリと笑う。
「いいぜ。 まだ戦い慣れちゃいないけど、見てくれよ」
この作品が気に入ったら

コメント
まだコメントはありません。
会員登録(無料)かログインをすると、コメントを書けます。