乾いた風が、痩せ細った大地の表面をかすり、細かな砂塵を巻き上げる。
「山口・アンジェロ」は、レオニート親子の駆る古びた幌付きトラックの荷台で、どんどんと後ろにかっ飛んでいく荒涼とした景色を眺めていた。
地平線の彼方まで続く赤茶けた土と、時折現れるまばらな木々…
そこには、かつての文明が持っていた色彩のかけらも残っていない。
ただ、圧倒的なまでに突き抜けた青空と、それと対比するかのような大地の茶色が、二色のはっきりしたコントラストを見せている。
…やがて、彼らの行く手、その端に。
地面にへばりつくような、低い家々の影が見え始める。
それは、小さな農村。
「もう着きますよ、アンジェロさん。
ここが、今日の目的地…小さな集落です」
ハンドルを握る行商人の父・レオニートが、穏やかな声で荷台の男に告げた。
ふくふくとした頬、丸い瞳は、彼を年齢よりも随分と若く見せている。
しかし、彼の実年齢は、恐らくはもう40半ばか、50絡み。
何故なら…
「へへ、あんたがいてくれるなら、荷出しもさっさとすみそうで助かるぜ…
な、アンジェロさん!」
助手席に座り、「アンジェロ」に軽口を叩く、金色の髪の美青年。
ぱっと見女性か、と見まごうような綺麗な顔立ちをしているが…
彼、レオニートの息子であるルカは、今年でもう21だと言うのだから。
この容姿は、なくなった彼の母親に生き写しだ、と言う…
「ああ、それで父親にはまったく似ていないのだなあ」、と「アンジェロ」は率直に思った。
「あいよ!レオニートの旦那、ルカ殿ォ…
某に任せておくれよねェ!」
まるで複数の人格を接ぎ木したかのような、混ぜこぜの言葉選び。
荷台の大柄な荷物は、にかっ、とその整った顔にひょうきんな笑みを浮かべ、快諾する…
彼らは「アンジェロ」を「高度都市(メガロポリス)」・「ンナゴヤ」の近くまで連れて行ってくれる、と申し出てくれた。
しかし、そこまで直行するわけでもなく…
たどり着くまでは、幾つかの「外縁部(アウトサイド)」の村々、「街(タウン)」を経由する。
なので、そこでの手伝いくらいはさせてくれ…と、彼は頼んだのだ。
トラックは静かにその村のだだっ広い空き地…広場らしき場所に滑り込む。
トラックが停止すると、エンジンの重低音の響きは消え、代わりに奇妙な静寂が周囲を包み込む…
だが、それも一瞬のことだった。
「!…あ!」
「来たよぉ、みんな!」
どこからともなく、子どもたちがひょいひょい、と姿をあらわし。
目を輝かせながら、トラックを囲む…
彼らの肌は砂に汚れ、着ているものも汚れてはいるが。
その瞳は、きらきらと期待に満ちて輝いている…
「外縁部」の過酷な日常の中。
行商人の来訪は、彼らにとって喜ばしい、めったにないイベントなのだ。
「さあ、ルカ…
まずは荷降ろしだ!」
「分かってるよ、父さん…
うっ、お、重ッ!」
荷台に飛び乗ったルカが、木箱の角に指をかけ、顔を真っ赤にして踏ん張る…
しかし、華奢な彼の細い腕は、無情にもその重みに負けてしまい。
へっぴり腰になってしまい、膝ががくがくと笑う…
それを見兼ねた「アンジェロ」。
彼は一つに結った髪束を揺らし、にこり、と、ルカに笑いかけ。
「…代わりますですよ」
短く告げると、彼はルカが持っていた木箱を片手でひょい、と持ち。
それを大きな木箱の上に重ね、もう二つ、三つと別の木箱を重ねて。
「っとお!」
両腕でそれらをいっぺんに、抱え上げた。
その動作には、力みというものが一切感じられない。
鋼のように鍛え抜かれた肉体が、羽毛でも扱うかのような軽やかさで、超人的な膂力を発揮する。
「わあ…!おじさん、すごい!」
「見て、あんなに重そうなのに!」
子どもたちが歓声を上げ、「アンジェロ」の周りを跳ね回る。
紫の瞳に僅かな戸惑いを浮かべながらも、「アンジェロ」はへらへら、と、笑いながら、レオニートに指定された場所へと荷物を運んでいく…
一方、ルカは一つだけの箱と格闘し続けており。
ようやくそれを地面に降ろした頃には、額に大粒の汗を浮かべて肩で息をしていた。
その不格好だが懸命な努力を見て、レオニートが豪快な笑い声を上げる。
「ははは!まったくお前は、死んだ母さんに似て華奢だからなあ!
そんなんじゃ将来、立派な商売人にはなれんぞ!」
「ちぇっ…情けねぇぜ!」
悔しそうに唇を噛む息子に、レオニートはそっとその大きな手を肩に置いた。
「まあ焦るな、ルカ!
父さんも、今のお前くらいの時はそうだったよ」
穏やかな笑顔で、彼を労う。
「重いものを運ぶコツは、力だけじゃない。
背負っているものの重さを知ることさ」
荷物の向こう側にある人々の顔を想像すれば、不思議と身体が動くようになる。
決して焦る必要はない…
その内、その若さは力に変わっていくのだから。
「…」
親子の交わす軽口とあたたかなやり取りを、荷物を運びながら「アンジェロ」は見つめていた。
例え、彼らが大金持ちの大商人でなくとも。
ここには、冷徹な拝金主義、効率主義、力こそが正義である略奪者の理屈とは無縁の、泥臭くも尊い絆がある…
彼らを見やる「アンジェロ」の紫の瞳が、少し眩しげに微笑んだ。
広場には、少しずつ大人たちも集まってきていた。
集まった村人たちの顔は、強い日差しに焼かれ、皺が刻まれている。
日々の労働、そして絶え間ない不安に晒されている者の顔だ。
それは大地と格闘し、今日という日を絞り出した者たちの証でもあった。
だが…今、トラックを囲んでいる彼らの瞳には。
子どもたちと同じく、希望の光がちかちか、と瞬いている。
そして、頃合いを見計らって、レオニートが木箱の蓋をこじ開け、中身を披露した瞬間…
彼らは、ぱっ、と一斉に駆け寄ってくる!
「さあ、皆さんの生活に彩りを!
今回も色々おもしろいものを持ってまいりましたよ!」
「わあ〜!」
「何、何?!」
「こないだ見せてくれた奴、またあるかい?!」
一挙に騒がしくなる広場。
レオニートとルカ、そして「アンジェロ」は村人たちに取り巻かれる…
「さあさあ、奥方たちにはこれ!
ただの塩じゃないよ、料理が美味しくなるフレーバーソルト!」
「いいじゃないの、それくださいな!」
「ほら、これは『街(タウン)』で最近流行ってる菓子、マドレーヌってやつだぜ!」
「うわあぁ!おかーさん、買ってぇ!」
「あの〜、前見せてもらった石鹸はあるかいね?」
「もちろん!いくつにします?」
「あっ、その…」
「ええと、あのさぁ…」
「わかってますって!
…はい、『月刊・官能蜜壺エクスプレス』最新号ね!」
「あっ、馬鹿?!」
「そ、そんな大きな声で言うない」
「…あんたァ、何に金使ってんだい?!」
「またしょうもないエロ漫画雑誌なんか買って!」
「い、いいじゃねえか、これくらい!」
「そんな下品なもん、また焚き付けにしちまうよ!」
「や、やめてくれよ〜…!」
「あのね、お兄ちゃん?
こないだのね、さくさくしたお菓子、おいしかった…ある?」
「ほいよ、『うめぇ棒』!
今回はコーンポタージュとチーズ、野菜サラダ味だぜ!」
商売人たちはすぐさま顧客たちに商品をプレゼンしていく。
「…」
さすがにそれは手伝えない着流しの男は、目をぱちくりさせてそれを呆然と見ている…
ふ、と、その眉目秀麗な顔が、やさしい微笑みで彩られる。
レオニードとルカが持ってきた商品を見る村人たちの表情は、誰も彼もが明るくて。
楽しげで、うれしげで。
そうだ、ただ生きるために生きるのではなく。
こころの何処かをあたたかく照らすようなモノが、人間の生活には必要なのだ…
彼らが単なる生物ではなく、「人間」であることを思い出させてくれる、魂の滋養。
こんな「外縁部」の偏狭な土地に、それらをもたらしてくれる者たち。
それがレオニードたち、行商人なのだ…
彼らが大切に貯めた僅かな金をレオニートたちに手渡す時。
そこには、単なる金銭の授受を超えた、尊い約束のようなものが存在しているように見えた。
両者ともに、笑顔で。
「また来てくれよな!」
「はい、必ず来ますよ!」
その簡潔な言葉に込められた、信頼の重さ。
「…ねえ、アンジェロさん」
商談の合間に、レオニートがこちらを振り返る。
その顔は、一人の行商人としての矜持に満ち溢れていた。
「我々が運んでいるのは、ただのモノではないんです…
ね、わかるでしょう?」
「…ええ!」
「アンジェロ」は、笑顔で首肯して。
その胸の奥底で、何かが僅かに熱を帯びるのを感じる。
暴力と略奪が支配する、この無慈悲な世界で。
けれども誰かのために汗を流し、重い荷を運び、危険な旅を続ける人がいる。
それは、裕福な「都市(シティ)」や「高度都市(メガロポリス)」の連中が想像も出来ないような、効率が悪く、儲からない、無謀な…
しかし、果てしなく高潔な職務。
そんな彼らの姿は今、「山口・アンジェロ」の目に、眩いほど美しく映っていた。
「…良い、仕事だな」
思わず、「アンジェロ」はそう呟いていた。
その言葉には、目の前の光景に対する、純粋な敬意。
彼の掠れた声は、吹き付ける砂塵に混じって空へと消えていった。
が、彼の傍らで空の箱を片付けていたルカは、確かにそれを聞き…
照れ臭そうに、しかし誇らしげに鼻を鳴らした。
「だろ?…へへ、大事なことなんだよな!」
金糸の髪の毛を、さらさらと揺らしながら。
まだまだひよっこの商売人、桂・ルカも…その美貌をほころばせた。
だが、そんな穏やかな時間の裏側で。
目に見えぬ不穏の影は、着実に、そして冷酷に彼らに忍び寄っている…
しばしの時は過ぎて。
太陽が西の空へと傾き始め、村の家々の影は長く伸びていく。
レオニートたちは村人たち相手の取引を終え、最後に村長(むらおさ)に挨拶をしに行く。
村長は、またこの辺鄙な土地を訪ねてくれたレオニートたちに何度も何度も謝意を示しながら。
だが、最後に…ふっ、と、その顔を深刻さで曇らせた。
彼の様子は、何処か切迫したものを感じさせていて。
村長は、震える吐息を漏らしながら、彼らにこう言った。
「レオニートさん、よくお聞きくだされ…
老婆心ながら忠告させていただきますが、この先の岩山。
可能なら、近寄らぬほうがいい」
「この先の、ですか?あの、街道沿いの?」
「ええ」
年老いた村長は、顎の真っ白な髭を撫でながら。
沈痛そうな面持ちで、吐き出した。
「ひどく、不穏な噂が流れております…
あの辺りに、新たな強盗団が巣食ってしまったようで」
「強盗団?」
「…今度の連中は、質の悪さが桁違いだという話です。
『章人(アキヒト)・ダ・シルヴァ』とか言う男が率いているらしい、武装強盗団ですよ」
…村長が、漏れて来た噂話を聞き取ったところに寄ると。
噂では、その男は元々「都市(シティ)」の治安維持部隊でエリート街道を歩んでいたらしい。
だが、その残虐性と、他者の命を塵芥のように扱う異常行動。
それゆえに、組織、ひいては「都市」自体を追放されたとか…
「都市」から追い出されその外で生きるしかない、というのは、「都市」「高度都市」の人間にとって恐ろしい刑罰だ。
だが、章人・ダ・シルヴァはそうされた…
すなわち、彼が犯した罪は、相当悪質で悪辣なものだった、ということだ。
彼はこの先の岩山あたりにたむろしていた野党どもを「都市」から持ち出した武器で制圧し。
そして自分に服従させ、自らが強盗団のボスとなった…
抵抗する者はもちろん、跪いて命乞いをする者さえ、娯楽のように情け容赦なく皆殺しにし、文字通りすべてを奪い去る。
村長の耳に届いてきた噂話を総合すると、そのような話らしい。
「『都市(シティ)』から堕ちた連中か…
そんな武器を持たれたのでは、手も足も出ませんね」
レオニートは、険しい表情でため息を付いた。
自分たちも、護身用にナイフや拳銃くらいは持っているが…
それは所詮旧式のものに過ぎない、「都市」製の最新の銃器を持ち出されたら、抵抗のしようもない。
「…」
その話を、レオニートたちとともに聞いていた、「山口・アンジェロ」。
彼の薄い唇に、僅かな苦みが走る。
「親父、まずいんじゃねえか?
全速力出せば、今からなら夜までにあの辺を抜けられる」
「ああ、そうだな」
行商人親子も、すぐさまここを出発すべきであると結論づけたようだ。
にわかに表情が険しくなったレオニートは、村長に気もそぞろな会釈をし。
一刻も早く危険地帯を抜け出すために、この村を辞する。
「忠告感謝します、村長…
ルカ、急ぐぞ」
「…うん」
「アンジェロさんも、すぐに準備を」
「あいさァ」
急がねばならない。
何とか、強盗団がいるという岩場を抜け去らねば…
悪党どもの天下となってしまう、夜が来る前に。
村を出たトラックは、夕闇の迫る荒野を、埃を巻き上げながらひた走っていた。
窓の外を流れる景色は、太陽の沈没とともに徐々に赤黒い影に支配され、不気味な沈黙が彼らを包み込む。
街道を、とにかく出来うる限りの全速力で。
しかし、ただでさえ古いトラックは、荷台にまだたくさんの商品を積んでいるせいもあって、速度はそこまで上がらない…
焦る彼らの気持ちとは裏腹に。
そして、彼らの行く手を阻むものは、唐突に。
そして、逃れようのない巨大な質量を持って現れた。
「!…っと、こいつは酷いな」
運転席のレオニートがブレーキを深く踏み込み、トラックは軋んだ悲鳴のような音を立てて停止する…
ヘッドライトの強烈な光が、薄暗くなった夕焼けの中に浮かび上がらせたのは…
街道を完全に、無慈悲に塞ぐ巨大な岩の塊、幾重にも積み上げられたような土砂の山。
豪雨か何かによる自然災害か、あるいは脆弱な地質による突発的な崩落か。
切り立った斜面は無残に削り取られており、かつて道であった場所は、今や人力では乗り越えることのできない小山へと変貌していた。
「参ったな…
これだけの量だと、乗り越えるのは到底無理だ」
街道を完全に塞いでしまっているその土砂は、トラックで乗り越えられるようなものでは最早無く。
このルートは使えない、彼らはそう判断せざるを得なかった。
何とか、迂回路を探さなければ…
レオニートは重い溜息をつき、ハンドルを握る手に力を込めた。
しかし、荷台で静かに外の景色を凝視していた「アンジェロ」は。
その紫の瞳で、何か別のモノを探し出そうとしていた…
息が詰まるような、重苦しい空気を切り裂くように。
「アンジェロ」が、不意に、いつものふざけたような軽い口調で沈黙を破る。
「…ねえ、レオニートの旦那ァ」
「はい?」
「わっち、ちょっと…回り道できそうな場所を探しに行ってくらァ」
「えッ?!」
思いもかけないことを言い出した着流しの男に、驚きの目を向ける二人。
「あんたがたはここで車を降りず、ライトを消して待ってなよ」
アンジェロが低い、感情の温度が完全に剥ぎ取られた声で告げ、ドアのロックを静かに外す。その所作には、旅人の軽薄さは微塵も残っていなかった。
「アンジェロさん、それなら俺も…」
「いいやァ、ルカ殿。
あんたはここで、レオニートの旦那といてやってくれ。
…当方の腕力、知ってござるでしょ?」
「…」
ルカの申し出を、くすり、と笑いながら辞退して。
紫の瞳の美青年は、小首を傾げてそう言った…
それまで通り、「アンジェロ」の喋り方は、一人称も語尾もぐちゃぐちゃの継ぎ接ぎで。
まるでふざけているかのように聞こえるが…
しかし、わずかにその声音が強張っていることを、レオニートもルカも察した。
彼は…「何か」を感じているのだ。
「で、でも…無茶はしないでくださいよ、アンジェロさん」
「少し時間がかかるかもしれないのね、だから…
二人とも、俺が戻るまでここにいてね?」
そう言い残すと、「アンジェロ」は夜の帳へと溶け込むように、音もなく消えていった…
彼の後ろ姿を、見送って。
レオニートは、ヘッドライトのスイッチを切る。
濃くなっていく夕闇が支配する世界で、エンジン音が途絶えた途端…
唐突に、そこは夜のような色彩に塗りつぶされた。
「…」
「…」
行商人親子は、祈るような思いで、ただただトラックの車内で息をしている…
彼らには、知る由もない。
闇の奥から、十数人の男たちが、着実に…こちらに一歩ずつ、逃げ場を奪うように近づいていることに。
そして、しばしの間隙の後に。
この沈黙を、抗いようのない圧倒的な暴力と、救いのない銃声が切り裂くことになるということに──
「…」
「山口・アンジェロ」の歩みは、すでに疾走へと変わっていた。
もしも、村長の警告が事実なら。
この付近には、すでに獲物の喉笛を狙う捕食者どもが潜んでいる可能性がある。
「アンジェロ」は、獣のような直感から感じていた。
あの、眼前の崩落…そこに潜む、言いようのない「作為」。
土砂の不自然な崩れ方、そして何より街道をしっかりと、避けて通ることすら出来ないほどに完全に塞いでしまっていたこと。
紫の瞳は冷徹な光を湛え、周囲の闇を走査する高性能なセンサーへと変貌する。
彼は人気のない岩場を疾走しながら、捜す…
それを実行しただろう、凶賊どもの姿を。
彼の真の目的は、周辺の徹底的な警戒、そして掃討。
…彼らがレオニートたちを見つける前に、全員始末する。
「山口・アンジェロ」がトラックを飛び出してきたのは、そのためだった。
彼がまず足を止めたのは、街道からわずかに外れた岩の陰…
「…」
「アンジェロ」は膝をつき、指先で地面の砂を軽く撫でる。
そこには、一見すれば風が描いた文様にしか見えない、かすかな凹凸。
だがそれは、おそらくは…ブーツのソールが地面にねじつけた跡だ。
そんな物が残っている、ということは…
近くに、いる。
靴跡の爪先が示す方向へと、「アンジェロ」は耳を澄ます。
風の音が、びょうびょう、と鳴っている。
…だが、しかし。
彼の鋭敏な感覚は、それを掴まえた──
風上から流れてくる、人の声!
紫の瞳が、揺らぐ。
沸き起こってきた、殺意に揺らぐ──
岩陰に潜み、待機していたのは…三人の男たち。
彼らは、「都市」製の最新型暗視ゴーグルを額に跳ね上げ、待っている…
作戦実行の時を、待っているのだ。
これから始まる、狩りにおいて。
獲物の逃げるだろう方向へと先回りし、足止めする。
それが、ボスからの命令。
山賊上がりの彼らは、自分たちが一方的に「狩る側」であると疑わず。
安物の酒を煽り飲みしながら、これからの略奪と暴行に胸を躍らせていた。
「そろそろ、ボスたちがおっぱじめる頃かねぇ?」
「ああ、街道はしっかり塞いだから、そうそう遠くにはいけないはずだ」
「さぁて、今回の獲物は何を持っ…」
男の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
喉が、驚愕で締め付けられたからだ。
彼らの、背後。
音もなく、いつの間にか出現していたモノ。
それは、長身の影──
彼らが振り返った刹那、周囲の空気が一瞬にして氷点下まで凍りついたかのような、圧倒的な殺気が場を支配する。
「…誰だッ?!」
一人が慌てて銃口をそちらへ向けようとする。
だが、その指が引き金にかかるよりも、ずっと早く。
「アンジェロ」の両腕は、動いた。
じゃきっ、という鋭い金属音が、二つ重なり。
闇の中でひらめく、冷たい輝きを飛び散らせる。
右手には、重厚な輝きを放ち、叩き斬ることに特化した西洋片手剣。
左手には、あらゆるものを断ち切る、鋭利な美しさを湛えた日本刀。
異なる文化と技術が結晶した二振りの獲物が、不吉に煌めいたのだ──
「…アタシたちの邪魔ァ、しないでほしいな?」
それが、彼ら三人が、今生で聞いた最後の台詞。
「アンジェロ」の身体は、独楽のように鋭く回転した。
右手の片手剣が、強引に銃を構えようとした男の腕を斬り潰す。
男が苦悶の声を上げる隙さえ与えず、反転の勢いをそのまま乗せて。
左手の日本刀が、剃刀のような鋭さで流れるような水平の軌跡を描いた。
閃光。
涼やかなその音は、肉を断つ音だった。
鮮血が夜風に舞い、男は言葉にならない喘ぎを漏らしながら崩れ落ちた。
「な、何だてめえ?!」
「こ、このお、ッ!」
残る二人はパニックに陥り、絶叫しながら、引き金に指をかける。
それはやはり、遅すぎた。
銃火が噴き出す直前、「アンジェロ」はすでに…
彼らの懐に、まるで吸い込まれるような速度で潜り込んでいた。
右手の剣で一人のガードを強引に跳ね上げ、無防備な胴体を曝け出させ。
そこへ、左手の刀を突き立てる、骨の隙間から心臓へと。
背中まで貫通した日本刀を抜くと同時に、最後の一人を右手の剣で屠る、
顎から頭蓋の天辺まで、その怪力に任せて下から薙ぎ割った。
…わずか、数秒。
三人の野盗どもは、自分たちが誰に殺されたのかも理解できぬまま、砂上の物言わぬ肉塊へと変わった。
死体の切り口からは熱い湯気が立ち上り、鉄錆びた死の匂いが周囲に漂い始める…
それは、「アンジェロ」が歩む道に常に付き纏う、お決まりの匂い。
「アンジェロ」は、刃に付着した血を無造作に振り払う。
「…まだ、いやがるはずだ」
彼が始末したのは、レオニートたちを狙っているだろう包囲網の端にある、小隊に過ぎない。
本隊、そして、その中心にいる「章人・ダ・シルヴァ」なる名の狂気は、彼らを狙い、潜んでいるはずだ…
「アンジェロ」は理解していた、そのような連中にはまともな話など通じやしない、ということを。
だから、消すしかない…
連中がレオニートたちに毒牙を向ける、その前に。
「アンジェロ」は腰の二振りを静かに鞘に収め、再び疾走りはじめる。
彼は知っている。この夜が、血の赤で塗り潰されるまで終わらないことを。
だが、事態は最悪の方向へと針を触れた。
誰が悪いわけでもなく、ただ運が悪かった…としか、言いようがない。
行けども行けども似たような岩と深い影ばかりが続き、その警戒心ゆえに彼の足取りはより深く、より遠くへと誘われていく。
地形の複雑さに意識を裂かれたせいか、気づけば「アンジェロ」は…
最早叫んでも声が届かぬほどの距離まで、トラックから離れてしまっていた。
「アンジェロ」は懸命に走り続けた、強盗団の本隊を探そうとして。
しかし、彼が向かった方向とは真逆の方向にいたのだ、彼奴らは。
そして、連中は襲いかかった──
トラックで彼を待つ、レオニートとルカへと。
トラックでは、ルカが不安と焦燥を隠しきれずにいた。
「遅いな…アンジェロさん。
親父、あの人、大丈夫だろうか?」
「ああ…
あの腕っぷしの強さなら、たとえ襲われても逃げ切れるだろうが」
もう、夕闇の橙は既に、夜闇の紺に塗りつぶされてしまった。
一刻も早く迂回路を探し出してこの地域を通過したかったが…日が落ちてしまった今では難しい。
夜の色は深すぎて、頭上から重苦しく彼らにのしかかってくるようだ…
「…それにしても、静かすぎるな」
レオニートが背筋を伝う胸騒ぎを感じ、周囲の底知れない暗がりに目を細めた、
まさに、その瞬間だった。
──たたんッ、たんッ、たたんッ!
乾いた、空気を裂くような連射音が、静寂を無惨に引き裂いた。
「…ッ?!」
間を置かず、複数の鋭い衝撃がトラックの幌を容赦なく貫き。
内部の鉄枠に衝突し、甲高い悲鳴と鮮やかな火花を散らす。
自動小銃から放たれた銃弾は、古びた幌を薄い紙細工のように無造作に貫き割り、無様な穴を開ける。
「…!」
銃撃に硬直するレオニートとルカ、彼らの視界の中に…あらわれる。
岩山の斜面、視認しづらい深い死角から…音もなく生えてくる、複数の男たちの姿!
「外縁部」の野盗には似つかわしくないその装備。
機能的な防弾ベスト、頭部を覆うヘルメット…そして、手にしているのは銃器。
「おらぁ!出てこいや!」
「蜂の巣になりたくなかったら、とっとと外に出てきやがれ!」
連中の恫喝と銃口に強いられ、レオニートたちはトラックの運転席から出ていくしかなかった。
トラックは、彼らは既に強盗団に囲まれていた。
十数の影は、彼らの持っている護身用の武器で何とか出来る範疇を超えてしまっている…
…そして、その黒い影帽子どもの中心に。
薄汚れてはいるが、かつての誇りであったろう「都市」の軍制服を…
あえて、汚辱に塗れた勲章のように身に纏った男が立っていた。
その時、かなり離れた岩山で──
「…!」
三人を仕留めた直後の静寂を、切り裂いたモノが在る。
微かな風に運ばれ、岩肌に反響して届いた音。
それが銃声であることに気づいた瞬間、「アンジェロ」の顔から血の気が引いた。
そして、それが流れてきた方向は…背後。
…これまで自分が移動してきたはずの方向!
(まずい、…真反対か?!)
連続した銃声、恐らくは短機関銃の音。
レオニートやルカが持っているものではない…
つまりは、強盗団!
この音の反響からすると…相当な距離がある!
「アンジェロ」の脳裏をよぎる、
笑いかけてくれたレオニートの素朴な横顔、懸命に荷物を運んでいたルカの姿。
二人は今まさに、自分という絶対的な守護を欠いた状態でいるのだ、
抗いようのない「死」という名の巨大な暴力に飲み込まれようとしている…!
その絶望的な事実が激しい戦慄となって彼の魂を貫く、
全身の血液が沸騰するような焦燥感。
「レオニートの旦那、ルカ殿…!」
「アンジェロ」の紫の瞳が、殺気に満ちる。
深淵の底から湧き上がるような、絶対的な殺気…
肺が焼けるような熱を帯び、心臓がリミットを超えた速度で昂る。
彼は砕くほどの力で地を強く蹴り、目に見えぬ疾風のごとき速度で、真っ逆さまに駆け出した。
「もたもたしてんじゃねえぞ、わっちの足……ッ!」
レオニート親子が待つ、トラックへと向かって。
その手はすでに、腰に帯びた二振りの柄へと、無意識のうちに深くかけられていた。
強盗団を率いる、「都市」の軍服姿の男。
…章人・ダ・シルヴァ。
冷酷な嘲笑を浮かべ、手に持ったマシンピストルの銃口を震える親子へと向ける。
「さて…この辺りは我々の家でね?
勝手に通行してもらっちゃあ、困るんだなあ」
男は、獲物を袋小路に追い詰めた、飢えた猟犬のような目を光らせ。
行商人たちを威圧するように、傲慢に、吐き捨てるように宣言した。
「俺の名は、章人・ダ・シルヴァ。
まあ、あんたがたには不運なことかもしれないが。
他人様の土地を通る時には、『通行料』、って奴が必要でねぇ?」
その言葉に、レオニートは震える膝を必死に叱咤し。
ルカを背後に隠すようにして、一歩、また一歩と震える足取りで前へ出た。
彼の顔は恐怖と絶望で土色に強張っていたが、父親としての…
唯一無二の息子を守る、という本能だけが、彼の勇気をかろうじて繋ぎ止めていた。
「ま、待ってくれ…!
荷物は、積荷は全部やる…すべて、今ここで渡す!
だから、どうか…どうか息子には手を出さないでくれ!」
「…」
「頼む、この通りだ…命だけは…!」
レオニートはプライドも、商人の誇りも捨て去り。
がば、と、汚れた地面の砂に額を擦りつけ、必死に頭を下げた。
だが、その悲痛な、魂を削るような嘆願は…
根性の捻くれ曲がった悪党どもにとっては、自らの力を誇示するための、この上なく甘美で滑稽な音楽にしか聞こえなかった。
「はッ、笑わせるな!」
章人がその顔に、愉悦と軽蔑に歪んだ笑みを深く刻む。
「ゴミ溜めの、蛆虫にも劣るカスどもが…
この俺と、対等な立場で言葉を交わせると思っているのか?!」
傲岸不遜な言葉を口から吐き出すと同時に。
彼は何の前触れもなしに、マシンピストルの銃口をレオニートに向けた──!
その気配にはっ、となった桂・レオニートが、立ち上がって逃げようとした、その刹那。
たん、たたんッ!
「…ッあ、が…ッ!
あああああッ!!」
外縁部の野党どもが使う旧式の拳銃とは一線を画す、洗練された殺戮の音。
「都市」の軍事技術で作られた暴力は、狙い過たず、冷徹に…
そして何より効率的に、いのちの尊厳を削り取っていく。
一発、また一発と放たれた弾丸が、彼の右脚と左肩、そして右脇腹を、まるで目に見えぬ巨大な杭で打ち抜いたかのような、凄まじい衝撃と共に弾け飛ばす。
骨が砕け散る嫌な感触と、熱い鉛の塊が肉を抉りながら体内を激しく掻き回し、通り抜けていく灼熱。
弾丸が肉を通過するたびに、レオニートの身体は操り人形のように不自然に跳ね。
「ぐ…!」
どさり、と。
レオニートは、激痛と衝撃に押し流されるようにして、冷たい地面に崩れ落ちた…
服を貫いた銃創からは鮮血が間欠泉のように噴き出し、彼の周りに悍ましい赤い模様を描いていく。
章人はその無惨な光景を、冷酷な目で見下ろしていた。
彼にとって、弱者の流す血は、ただの色の濃い絵具にすぎないのだから。
「親父ッ!親父ィッ!」
ルカは、絶叫。
血の海に沈もうとする父親のもとへと、駆け寄ろうとした。
だが、その手が父親に触れる直前、さらなる銃声がルカの目の前の砂を爆ぜさせた。
跳ね上がった砂礫がルカを鋭く打ち、恐怖が彼の動きを物理的に凍りつかせる…
「動くんじゃねえよ。
親父を穴だらけにされてぇか?」
低く、それでいて隠しきれない愉悦に満ちた声が闇から響く。
章人は、次なる獲物を見定めるように…
ルカへと、ねっとりとした視線を移した。
恐怖に震え、涙で潤んだ瞳。
一瞬女か、とも思ったが、声音からしたら男…らしい。
…だが、まあ、どちらでもいい。
どちらでもいいのだ、章人にとっては。
なかなかお目にかかれない特上品なら、どちらであっても関係ない。
ルカのその整った容姿が、章人の歪みきった嗜虐心をこれ以上ないほど激しく刺激する。
「ほう…こんな田舎じゃ、珍しい。
都市(シティ)の変態どもが、財産投げ打って買い叩きたがるような上玉じゃねえか」
「…?!」
章人は銃を慣れた手つきでホルスターに収めると、つかつか、と歩み寄り。
怖じたルカの髪を乱暴に掴み、引き上げる。
ルカの短い悲鳴が、夜の荒野に虚しく響く。
章人はその顔をじっくりと観察し、奴隷の品質を確かめるかのような、薄汚い笑みを浮かべた…
その目は、ルカを一人の人間としてではなく、ただ使い潰すための「玩具」として検分していた。
「親父…、親父…ッ!」
「安心しろ、この程度じゃまだ死なねえよ…!」
正確に、ルカの無防備な腹部へ、全体重を乗せた拳を深々とめり込ませた。
がっ、と、内臓が潰れるような鈍い音が響き渡る。
ルカの口から、胃液とともに血の混じった唾液が溢れ出し。
衝撃で肺の空気がすべて押し出され、ひゅう、ひゅう、という掠れた音しか出せない…
「あ、が…は、っ、」
章人は、下卑た、ねっとりとした欲望を孕んだ笑いを浮かべ。
呼吸すらままならなくなったルカの腹を、容赦なく殴りつけた。
二度、三度。何度も。
腹に重いボディブロウを叩き込まれ、その度にルカは痛みに身悶えする。
細い肋骨が軋む不吉な感触が、激痛とともに伝わってくる。
ルカの意識は急速に混濁し、その瞳からは意志の光が消えかかっていく…
殴られるたびに身体が跳ね、地面の砂にルカの涙と鼻血が混じり合って吸い込まれていく。
ぐったり、と、もう抵抗ができなくなったところで。
章人は、ルカを乱暴に地面に叩きつける。
最早銃撃のショックで、意識を失いつつあるレオニートの目と鼻の先に。
その距離は、わずか数メートル。
手を伸ばせば届きそうな距離が、今のルカには彼方よりも遠く感じられる──
うつぶせに大地に伏す彼を、ブーツの爪先で踏みにじりながら。
「お前らゴミクズどもは、俺達の餌にしか過ぎねえんだよォ!」
章人は、下卑た笑い声を上げながら吐き捨てる。
それを見守っていた武装した部下たちが、喉を鳴らして下卑た笑い声を上げた…
「あ〜あ、またボスの悪い癖が始まった!
一度スイッチが入ると、満足するまで誰にも止められねえんだよな〜」
「可哀想にねぇ、あの坊主…」
章人のブーツが、地面に這いつくばるルカの脇腹を蹴る。
「う、ぐう…ッ!!」
痛みにもがき苦しむ、地面に転がる。
「親父…!親父ッ!」
だが、暴行を受け、意識が消失しそうな拷問の中にあっても。
ルカは、倒れ伏したまま動かなくなった父を案じ、何度も何度も呼ぶ。
銃創から今だ血は流れ続け、レオニートは青白い顔のまま、ぴくりとも動かなくない。
その無惨な姿が、ルカのこころを鋭利な刃物で切り刻まむ。
何度呼んでも、レオニートは答えない。
まるで、そのまま…ただ、死の時を待っているかのように。
痛みにルカは美貌を歪め、涙をぼろぼろこぼしながら、それでも父を呼び続ける…
その様子を眺めていた章人の瞳に…さらに陰湿な、粘着質な光が宿った。
「親父を呼ぶか…?いいぜ、見せてやれよ。
自慢の息子が、今どんなザマなのか、をなァ!」
吐き出したその台詞は、汚らしい言葉と残虐な加虐欲でびしゃびしゃになっていて。
痛みとショックで荒い呼吸を繰り返す、身動きもまともにできなくなったルカ。
蹴られるたびに、彼の身体は激痛に跳ね、砂の上に絶望の跡を刻む。
ルカの爪は、助けを求めるように地面に深く立てられ砂を深くえぐるものの、逃げ出すだけの力はあらず。
もはや、声さえも出せぬほどに体力を奪われ、口からはただ喘ぎと、痛みに反射的に出る絶望の吐息が漏れるのみ。
絶望に染まったルカの叫びを聞きながら、章人は心底楽しそうに、執拗な蹂躙を延々と続ける。
この男、章人・ダ・シルヴァ。
彼が、輝かしいはずの地位を奪われ「都市(シティ)」を追放され、この掃き溜めにまで堕ちたのも、ひとえに…
彼が自らの特権と武力を背景に、救いを求める多くの罪無き人々を拉致し、その尊厳を執拗に踏みにじり、潰し続けてきたからだ。
彼にとって、人々の敬意や信頼などはゴミ屑に等しく。
暴力によって得られる支配感と、弱者の悲鳴こそが、自身の飢えを潤す、唯一の悦楽だった。
「都市(シティ)」の暗部で繰り返されてきた彼の悪徳は、「外縁部(アウトサイド)」という無法地帯でさらなる狂気となって開花していた。
「おらぁ!もっと鳴けよ!派手に泣きわめけや!」
気色の悪い台詞が、興奮のあまり口の端からこぼれ出た唾液とともにルカの背に降りかかる。
どかっ、ごっ。
規則的に鳴る鈍い打撃音は、ルカの精神を削り取る。
助けを呼ぼうと伸ばした指先は、その先を見いだせず、虚しく空を掴んで離す。
(アンジェロさん…親父…)
祈りのような叫びは、無残に細切れにされていく。
ルカの精神は、肉体的なダメージよりもはるかに早く、音を立てて崩壊し始めていた。
視界は涙で曇り、意識は現実を拒絶するように遠のいていく。
章人が与える暴力の衝撃によって、意識は少しずつ消し飛ばされていく…
ルカはもはや、自分が何者であるかも、ここがどこであるかも、意識の境界自体が曖昧になりつつあった。
繰り返される暴行の衝撃のたびに、肉体的な痛みは麻痺し、代わりに冷たい空虚が心を支配していく。
自我が崩壊し、暗い深淵へと沈んでいく中、彼の思考はただ白く塗りつぶされていった──
その暴虐の宴が、延々と続く中。
狂気と暴力に酔いしれる章人・ダ・シルヴァは、まだ気づいていなかった。
黒紫の殺意を秘めた死神が、凄まじい速度で迫っていることに──
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