洞窟の中には、村の人たちが集まっていた。
湿った岩の匂い。天井から落ちる水滴の音。ランプの小さな灯りが、人の影を壁に大きく揺らしている。
子どもの泣き声。怪我人の、ひゅうひゅうと苦しそうな息づかい。不安そうに交わされる囁き声。誰もが平気な顔をしようとして、失敗していた。
母さんは、自分の前掛けを裂いて、リディアの左腕をキツく縛ってくれた。白い布は、みるみるうちに赤く滲んでいく。リディアは、痛いとも言わなかった。ただ、洞窟の入口を見ていた。
その頬に、乾いて黒ずんだ細い線が残っている。魔物の血だ。拭うことも忘れたまま、リディアはそこに座っていた。
僕は、自分の右手を見た。まだ指先が震えている。試しに、魔力を集めてみようとした。光の輪は形になる前に解けて消えた。
外では、まだ戦いが続いていた。
剣がぶつかり合う、遠い金属音。魔法の弾ける、鈍い破裂音。地面を揺らす、魔物の咆哮。それに混じって、誰かの叫び声が途切れ途切れに聞こえてくる。足音。何かが倒れる音。
僕は、洞窟の入口を何度も見た。
父さんは、まだ戦っている。おじさんも、おばさんも。さっきまで一緒にいた人たちが、まだあの向こうにいる。
「……大丈夫かな」
隣でリディアが呟いた。声が掠れていた。
僕はすぐに答えられなかった。大丈夫だと言いたかった。そう言えば、リディアも少しは安心できると思った。
「大丈夫だよ」
ようやく声にする。
根拠なんてなかった。自分でもその言葉を信じられていなかった。
「お父さんたち、強いから」
「……うん」
リディアは小さく頷いた。けれど膝の上で握りしめた右手は、白くなるほど震えていた。
いつもなら、何か言い返したり、無理にでも笑ったりするのに。今は入口から目を離せずにいる。
僕も黙って外を見つめた。
どれくらい経ったのか分からない。激しかった音が、ひとつずつ遠のいていった。剣がぶつかる音が途切れた。魔法の弾ける音がなくなった。魔物の咆哮が聞こえなくなった。
音が減るたびに、不安が胸の奥へ広がっていく。戦いが終わりに近づいている。
それは、勝ったということなのか。それとも――。
リディアの肩が、わずかに震えた。
僕は何か言おうとした。でも、言葉が出てこなかった。
やがて。最後の音が、ぷつりと途切れた。洞窟の中が急に広くなったような気がした。天井から落ちる水滴の音が、やけに大きく響く。誰かが息を呑む音まで聞こえた。
誰も何も言わなかった。静かだった。さっきまでのどんな音より、この静けさの方がずっと怖かった。
何が起きたのか、分からない。分からないから、怖い。
すると入口の光の中に、人影が現れた。
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