だけど耳からも、逃げられなかった。
「うっ……」
「誰か、こっちを手伝ってくれ!」
「まだ息がある!」
「布を! 早く!」
怪我をした人の呻き声。押し殺した泣き声。誰かを呼ぶ声。瓦礫をどかす音。
村のあちこちから、声が聞こえてくる。
自分の手を見る。震えていた。
僕の知っている村は、もうどこにもなかった。いつも駆けていた道も、家の前の椅子も、見慣れた景色のはずなのにどこか知らない場所のように見える。
リディアも、黙っていた。顔から血の気が引いている。頬にはまだ黒ずんだ線が残っていた。
けれど目だけが、忙しなく動いている。誰かを探している。僕にも分かった。
お父さんと、お母さんを探しているんだ。
戦いを終えた人たちが、互いの無事を確かめながら、ようやく動き始めていた。
「まだ見つかっていない人は?」
「こっちにはいない!」
「負傷者を運べ!」
「誰か、止血できるものを持ってこい!」
声が飛び交う。腕を押さえている人。頭を布で押さえている人。足を引きずりながら、それでも誰かを助けようとしている人。
僕もリディアの両親を探した。
見つかってほしい。でも見つからないでほしい。そんな矛盾したことを考えていた。
リディアも、辺りを見回している。
「……お父さん」
小さな声が聞こえた。誰かを見つけたのかと思った。
でも違った。ただ呼んだだけだった。
返事はない。リディアは、もう一度辺りを見る。
「……お母さん」
やっぱり、返事はなかった。
父さんは何かを知っているようだった。けれどすぐには言わなかった。
僕たちを連れて、壊れた家々の間を歩いていく。その途中で、僕は何度も目を逸らした。見たくなかった。けれど一度見てしまったものは、もう頭から消えなかった。
昼間まで、僕たちと同じように生きていた人たちだった。その事実が、何よりも怖かった。
やがて、父さんが立ち止まった。
「リディア」
「……はい」
返事は、小さかった。
「少し、いいか」
リディアは、父さんを見上げた。
「……お父さんと、お母さんは?」
父さんが黙った。
その沈黙だけで、僕にも分かってしまった。
「……二人とも、最後まで戦った」
父さんはゆっくりと言った。
「村の人たちを逃がすために」
リディアは黙っている。
父さんは一度、言葉を選ぶように口を閉じた。
「魔獣は、他の者たちでは手に負えなかった。二人は、そいつと最後まで戦った」
「……勝ったの?」
リディアの声は妙に平らだった。
「あぁ」
父さんが頷く。
「魔獣は倒した」
少しだけ間が空いた。
「……でも、二人も一緒に倒れた」
リディアの顔から表情が消えた。蝋燭の火がふっと吹き消されたみたいだった。
「……そう」
それだけだった。泣かなかった。声も上げなかった。
ただ、父さんを見ていた。
「顔、見たいか?」
父さんが聞く。
リディアは、暫く動かなかった。
それから、小さく頷いた。
父さんに連れられて、僕たちは村の外れへ向かった。
そこには、何人かの村人が集まっていた。その中央に二人が並べられていた。
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