あの夜が明けて、一日が過ぎた。
翌日の夜。僕たちは四人で夕食を食べていた。父さんと母さん。僕と、リディア。
卓の上には、豆のスープと、焼いたパンと、母さんが奥から出してきた干し肉の煮込み。湯気がランプの光の中をゆらゆらと昇って、天井の梁のあたりで消えていく。
昨日までなら、リディアは家で両親と食卓を囲んでいた。
でも今は、僕の家の食卓に座っている。たまに一緒に夕ご飯を食べることもあったけど、それとは違っていた。
それがまだ少し不思議だった。
不思議というより、間違い探しをしているみたいだった。見慣れたものの中に、何かひとつだけ違うものが混ざっている。何が違うのか分かっているのに、目がそこへ戻ってしまう。
「……」
今夜は誰もあまり喋らない。
だから食器が触れ合う音だけが、やけに大きく聞こえた。スプーンが器の縁を叩く、かちり、という音。誰かが座り直すたびに、椅子がわずかに軋む。暖炉の薪が、ぱち、と小さくはぜた。
リディアは左腕を膝の上に載せて、右手だけでスプーンを持っていた。袖の下には、白い布が巻かれている。
器の中のスープはほとんど減っていなかった。スプーンの先で豆をひとつ、転がしては戻す。口へ運ぶのは、ほんのわずか。
母さんはそれを見てたけど、何も言わなかった。ただリディアの前へ、パンの皿をそっと押しやっただけだった。
父さんの腕にも、包帯が巻かれている。いつもなら食事の時に一番よく喋るのはずなのに、今日は黙ってパンを千切っていた。
僕も何か言おうとした。「おいしいね」とか、「このスープ、好きなんだ」とか。でも言葉は喉のところまで来ると、それ以上は上へ上がってこなかった。
いつもの夕食と、同じ匂い。同じ皿。同じ灯り。
それなのに全然普通じゃなかった。
やがて、母さんが口を開いた。
「リディア」
「……うん」
「これからのことなんだけどね」
リディアが顔を上げる。
スプーンが器の縁に触れて、かちりと鳴った。
「ここで暮らさない?」
「……ここで?」
「ええ」
母さんは、優しく笑った。
でもその目尻がほんの少しだけ赤いことに、僕は気づいてしまった。
「あなたの家は、今すぐ元に戻せるような状態じゃないし……一人で暮らすのは大変でしょう?」
「でも……」
リディアが俯く。
膝の上の手が、ぎゅっと握りしめられるのが卓の端から見えた。
声が小さくなっていく。
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