「迷惑じゃ……」
「何言ってるの」
母さんが少し笑った。
「迷惑なわけないでしょう」
「そうだぞ」
父さんも頷いた。パンを千切る手を止めて、真っすぐにリディアを見る。
「うちでよければ、いつまででもいていい。子どもが一人増えて賑やかになる。良いことじゃないか」
その言い方があまりにも当たり前のことを言うみたいで、それがかえって胸に来た。
リディアは、暫く黙っていた。膝の上の手が白くなるほど握られている。誰の顔も見ないまま、唇が何度か、何かを言いかけては閉じた。
すると母さんが席を立って、リディアの椅子の後ろへ回った。何も言わずにその小さな肩へそっと手を置く。
「好きな方を選んでいいのよ。迷惑とかそんな事は考えずにね」
リディアの肩がほんの少し震えた。
やがて小さく頷いた。
「……ありがとう」
声が掠れていた。
「うん。おかえり」
母さんは、リディアの肩を軽く二度叩いてから、自分の席へ戻った。その途中で袖で目元を擦ったのを、僕は見なかったことにした。
それから母さんは、ふと思い出したように言った。
「あ、そうそう。一つ問題があるのよね」
「問題?」
「リディアの寝る場所」
母さんは、僕とリディアを交互に見る。
「ちゃんとしたベッドは、まだ用意できてないのよ」
「あ……」
リディアが、少し困った顔をした。
「だから、暫くイルヴァと同じ部屋で寝てもらおうと思うんだけど……」
母さんは、ごく普通のことを聞くような顔で言った。
「同じベッドでもいいわよね?」
「いいよ」
僕はすぐに答えた。
隣を見る。
リディアも、少し考えるような素振りすら見せずに頷いた。
「私もいいよ」
「じゃあ決まりね」
母さんはあっさり言った。
「二人とも昔からずっと一緒だもの。今さら気にすることでもないでしょう」
「そうだな」
父さんも笑う。
「二人とも仲がいいしな。ベッドをもう一つ用意するまで、それでいいだろ」
「うん」
「わかった」
二人共何の抵抗もなく頷いた。
僕にとってリディアは、昔からずっと隣にいる幼馴染だ。遊ぶときも一緒。村の中を歩く時だって、大体一緒だった。
だから同じ部屋で寝ることも、同じベッドで寝ることも、特別なことだとは思わなかった。むしろそれが決まった時、胸の奥のどこかがふっと軽くなった気がした。
それに毎日がお泊まりみたいで少しワクワクする。
「じゃあ、リディア。今日はイルヴァのところで寝てね」
「うん」
「イルヴァ、ちゃんと布団分けてあげるのよ?」
「わかってるよ」
「あと、寝相が悪いんだからリディアを蹴らないようにな」
「僕、そんなに悪くないよ!」
「この前、朝起きたら布団が全部床に落ちてただろ」
「それは……寝てる間のことだから知らないよ」
父さんが笑う。母さんも笑った。
そしてリディアも。ほんの少しだけ、口元を緩めた。
それを見て、僕も少しだけ嬉しくなった。
スープはまだ温かくて、リディアの器の中身がさっきよりほんのひと口分、減っている気がした。
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