リディアも、何度も挑戦した。やがてリディアの手の平から、ほんのかすかな風が生まれて、足もとの葉っぱが一枚ぴくりと動いた。
「今の見た!?」
「見た! 動いた!」
「動いたよね!?」
葉っぱ一枚に二人でぴょんぴょん跳ねて大騒ぎする。
何か特別なことをしているわけじゃない。ただできるようになったことを、試しているだけ。
それなのにどうしてこんなに楽しいんだろう。
「じゃあ僕はもっと大きくしてみる!」
「頑張って!」
「見てて!」
何度も魔力を使った。何度も魔法を出した。そのたびにリディアが笑ってくれて僕も笑った。
大樹の影がいつのまにか短くなっていた。時間が経つのも忘れていた。
だから。
「……あれ?」
足元が揺れた。
地面が波打ったみたいに。
「イルヴァ?」
身体に力が入らない。膝の糸がぷつりと切れたようだった。
「……なんか、変だ」
視界の端から色が滲んでいく。木の緑が溶けて空の青と混ざっていく。耳の奥で、ざあ、と砂が落ちるような音がした。
「イルヴァ!」
リディアの声が、水の底から聞こえるみたいに遠のいていく。
空が、傾いた。
「わっ……」
地面に倒れる――と思ったところで、腕を掴まれた。強い手だった。ぐいっと引き戻される。
「大丈夫!?」
「……うん」
大丈夫。そう言おうとしたのに、身体が鉛みたいに重い。手も足も力の入れ方を忘れてしまったみたいだった。
「……疲れたみたい」
そう言うとリディアは驚いた顔をして、それから少しだけ笑った。
「魔法って、結構疲れるんだね」
「……そうみたい」
「私、初めて使ったから知らなかった」
「僕も……」
昨日、お姉さんが「そのくらいにしておきな」と言った意味が、ようやく分かった気がした。魔力はまだまだ胸の奥に感じる。でも身体が言うことを聞かない。
魔法を使えるのが嬉しくて、夢中になって、身体がこんなに疲れるなんて、考えてもいなかった。
「じゃあ、休もっか」
「うん……」
リディアに支えられて大樹の下まで戻る。
大きな木陰は、昼なのにひんやりしていた。土と草の匂いがゆっくり肺に入ってくる。幹に背中を預けて座ると、それだけでずいぶん楽になった。
「……気持ちいい」
「疲れたね」
「うん」
目を閉じる。風が吹いて、葉っぱが揺れた。さらさらという音が、頭の上から降ってくる。
暫くすると。
「イルヴァ」
「ん?」
「横になったら?」
「うん」
「ほら、ここで」
リディアはそう言って、自分の太腿をぽんぽんと叩いた。
「ここ」
「……?」
「膝枕っていうらしいよ」
「ひざまくら?」
「うん」
「なんで?」
僕が聞くとリディアは少し考えてから答えた。
「前に、父さんが、母さんにしてもらってたから」
「おじさんが?」
「うん。疲れたときにしてもらうと、疲れが吹き飛ぶんだって」
「へえ……」
そういうものなんだろうか。
僕にはよく分からない。
「じゃあ、やってみる?」
「……うん」
言われるままそっと頭を預ける。
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